『みんなの当事者研究』出版記念シンポジウム


『みんなの当事者研究』出版記念シンポジウムに参加してきました(http://kongoshuppan.co.jp/dm/tojisha18.html)。

僕の報告は、前半は言いっぱなし聞きぱなしについて、後半はトラブル経験をめぐるアスペクト転換(トラブルを捉える枠組みの転換)の共同的実践についてでした。

参加しての最大の収穫は、最前列で皆さんのお話をうかがうことができたことです。皆さんのお話、ほんとにすごかった。そのなかでとくに、それぞれの当事者の治療・回復の歴史がきちんと語られてきていない、という上岡陽江さんの言葉が、とても強く印象に残っています。
他方、僕の報告の最大の反省点は、言いっぱなし聞きっぱなしの研究を共同で行なってきたことについて、報告することができなかったことです(そのほかにもありますが)。いつか機会を見つけ、ぜったいに報告したいと思っています。


ちなみに、今回のシンポジウムでいただいた問題提起と課題(丸括弧内)をあらためて整理すると、次のようになります。

  • 多くの当事者が、自身に生じてきた困難を言葉にできていないこと、そしてまたそのための言葉がないこと、したがってその困難が「自分の歴史」として捉えることができていないこと(……それでは、そのような言葉を作る仕掛けや道具には、どのようなものがあるのだろうか?)。
  • あるいは、そのような困難を言い表したり回復を継続するために自らのモノとしてあみ出された言葉が、専門家や非当事者研究者によって奪われ、異なる仕方で用いられてきてしまったこと(……それでは、その元々の言葉の文法(使用状況や用途、論理的帰結)はどのようなものだったのだろうか? また、その所有権を侵害して現れた新たな用法とはどのようなものであり、どのような問題をもつのだろうか?)。


と、こう整理してくると、個人についての語りを扱ったハッキングの議論が、個人的には気になってきました。ひとつは専門家による語り(Rewriting the Soul)、もうひとつは当事者による語り("Autistic Autobiography")。この議論の対照性について、整理し直してみる必要がありそうだとあらためて感じています。



臨床心理学増刊第9号―みんなの当事者研究 (臨床心理学増刊 第 9号)

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