「人間の本性」という問い

人間の本性という概念は、通常は何らかの形の「相対主義」に関連して、社会諸科学の本性や射程をめぐる議論のなかに登場する。時と場所が異なれば人間生活の諸現象には非常に多くの、しかも明らかに排他的な多様性がある、ということに直面すると、我々は、これらの諸現象に通底しそれらを統一するものなど存在するのだろうか、と問いたくなる。しかしこのように身もふたもない問い方をすれば、問は定めし曖昧で、無意味に近いものになるであろう。むしろ我々がそのつど念頭においている人間生活の諸現象それぞれの特殊性に応じて、問自身がそれぞれ異なった形式で提起されるべきであり、又おそらくそれぞれ異なった形で答えられるべきであろう。

  • Winch, P. 1972, "Human nature," Ethics and Action, Rutledge & Kegan Paul.(=1987, 奥・松本訳「人間の本性」『倫理と行為』勁草書房, 100頁.)