治療契約:治療者と親との

  • Schopler, E., 1978, "Changing parental involvement in behavioral treatment," in Rutter, M. & E. Schopler, eds., Autism: A Reappraisal of Concepts and Treatment, Plenum Press (=丸井文男監訳『自閉症――その概念と治療に関する再検討』黎明書房, 447-456).

オペラント条件づけを〔自閉症児の行動修正に〕適用しはじめた頃は、親はほんの些細な役割しか認められていないにもかかわらず、治療計画に親が参加することは基本原理とされていた。1960年代前半には(リムランド, 1964)、自閉症というのは、病理的な家族関係からの一次的な社会的引きこもりであると、広くみなされていた。親のパーソナリティや態度の変化が子どもの改善にとって先決であると考えられていた。親は患者とみなされ治療を受けてきた。それは、パーソナリティの変化と精神病理の改善を期待されてのことである。自閉児とその親をこのように考える経験的な証拠はなかった(ラター, 1968)。その代わりそれは精神分析の理論と行政的考慮から引き出された理論的知見に基づいていた(ショップラー, 1971)。
その後の10年間に自閉児とその親の治療について、2つの重要な変化が起こってきている。ひとつは、親のあり方が障害の原因であるという考えから、親は子どもの最適な発達を促す役割を持っているという考えに変化してきている。この傾向は、親とセラピストの契約関係に反映されてきている。もうひとつは、実験的な研究方法から治療的研究方法に、行動修正技法が展開してきていることである。

このように整理したうえで、上記の契約関係を支える親についての捉え方を、I. ロヴァースのものに触れながら、次のように述べる。

従来の親―セラピストの関係においては、親は親子関係の本質的な要素を誤って解釈していると仮定され、他方専門家も、そう理解していた。この立場が変化してきているのである。行動学的な方向づけにおいては、専門家は、行動変容に関しては専門的知識を当然もっているが、親は自分の子どもについてより多くを知っているかもしれないということを認めている。専門家と親との契約関係におけるこの変化は、親・子どもに、うまく対処する能力を伸ばすのに十分な効果をもたらした。