いわゆる「指導」場面について

ある学会で報告するべく、「○△指導」と公式に銘打たれた場面をふたつ見直している。
見直してみて驚くのが、クライアントのニーズや個別的状況についてサーバントが問うことが極めて稀なこと。また問いへの答えが得られたとしても、サーバントが極めてカテゴリカルな助言で締めくくること。そして以上二点と対応するように、クライアントの受け止めがむしろ「同意」であって「助言を受け止める」という形にはなっていないこと。つまり助言はサーバントによって指向されつつも成立していないこと。
こうした特徴は、サーバントがクライアントのニーズを問うことで助言のレリヴァンスを確立するということがなされないことに由来している。ではこのレリヴァンスを確立すべくニーズをきちんと問えばよいかというと、他方でしかし、ニーズを問うことはニーズの不在を明らかにしてしまう可能性もある。そしてそれは、この場面じたいの存在理由を疑わせることにも通じてしまう。それはそれで良いのかもしれないが、そうなると施設のルーティンに反することになる(さらにその背後には行政の指導がある)。というわけで、肝心のニーズへの問いを中心としたやりとりが浅いままに場面が進行していく。この場面が「○△指導」と重々しく銘打たれているのも、ニーズの存在と助言のレリヴァンスの問題を避けるための方便のように思われてくる。
と、下記の文献のフォーマットにしたがってまとめられるように思った。しかし他方で、それでよいのかとの疑問もあり、時間が許せば別の点に注意したいとも思うのだけれど。

  • Heritage, J. and Sefi, S., 1992, "Dilemmas of advice: aspects of the delivery and reception of advice in interactions between health visitors and first-time mothers," in Drew, P. and Heritage, J. eds., Talk at Work, Cambridge U. P. , 359-417.

また、下記も参照。

  • 中村和生・樫田美雄, 2004「<助言者-相談者>という装置」『社会学評論』55(2), 80-96.

Talk at Work: Interaction in Institutional Settings (Studies in Interactional Sociolinguistics)

Talk at Work: Interaction in Institutional Settings (Studies in Interactional Sociolinguistics)